環境にやさしいウェブのための脱炭素用語集
脱炭素社会に向けた取り組みが企業や自治体で加速するなか、ウェブの設計・運用における「環境への配慮」は、もはや無視できない重要課題です。
これは、特定の専門職や業界だけの関心事ではなく、すべての制作者・運用者・発注者が共有すべき「共通の基礎知識」となっています。
そこで本記事では、ウェブ運用に役立つ脱炭素関連のキーワードを整理しました。
カーボンフットプリント(Carbon Footprint)
製品やサービスが、そのライフサイクル全体(原材料の調達、製造、輸送、使用、廃棄)において排出する温室効果ガスの総量を、CO2に換算して定量化した指標です。
ウェブサイトにおいては、サーバー機器の製造・導入、運用時の電力消費、ネットワークのデータ転送、閲覧者の端末使用などを含む「総合的な排出量」を指します。
ただし、サーバー製造・輸送や端末の使用環境などは実態把握が困難であり、ライフサイクル全体の正確な定量化には課題があります。そのため、ツールや分析対象によっては「運用フェーズ(電力消費)のみ」に限定して評価されるケースもあります。
注記:製品単位で排出量を見える化する制度では、「CFP(Carbon Footprint of Products)」の略称が使われることもあります(例:SuMPO認証制度)。
カーボンオフセット(Carbon Offset)
排出されたCO2の一部または全量を、他の場所での温室効果ガス削減活動によって相殺する仕組みです。たとえば、森林保全、再生可能エネルギー発電への投資、カーボンクレジットの購入などが代表的です。
ウェブサイト運用においても、サーバーやデータ転送によるCO2排出を、グリーン電力証書や信頼性のあるオフセットプログラムを通じて補う取り組みが広がっています。
カーボンクレジット(Carbon Credit)
温室効果ガスの排出を削減または吸収した量を、取引可能な「排出削減権」として数値化したもの。
1クレジット=CO2換算で1トンの削減・吸収量を示します。政府や第三者機関の認証を受けて発行され、企業や自治体が自らの排出量を相殺するために購入・活用します。
例:J-クレジット制度、JCM(Joint Crediting Mechanism/二国間クレジット制度)など。
カーボンゼロ/カーボンニュートラル/ネットゼロ(Carbon Zero / Carbon Neutral / Net Zero)
カーボンゼロ
事業や活動における温室効果ガスの排出を限りなくゼロに近づけた状態を指します。可能な限り排出そのものを回避・削減し、残る排出量はオフセットなどで補います。
カーボンニュートラル
排出された温室効果ガスと、吸収・削減された温室効果ガスが全体として均衡している状態を意味します。実質的な「排出ゼロ」とも言われますが、排出を完全になくすのではなく、吸収・相殺を含めてバランスを取る考え方です。
ネットゼロ
温室効果ガスの排出量と、自然または技術による吸収・除去量を差し引きゼロにする状態を指します。カーボンニュートラルとほぼ同義として扱われることが多いですが、ネットゼロは二酸化炭素以外の温室効果ガス(メタン、亜酸化窒素など)も含むより包括的な概念であり、国際的な気候目標や政策で多用される用語です。
注記:製造プロセス単位でのゼロ・エミッションは「製造時に一切のGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)を排出しない状態」を指すこともありますが、カーボンニュートラルは「排出があっても吸収で差し引きゼロになる」という概念の違いがあります。
GX(グリーントランスフォーメーション)
脱炭素・循環型社会への構造的転換を目指す国家的・企業的取り組み。2022年には政府が「GX実現に向けた基本方針」を策定し、再生可能エネルギーの普及やカーボンプライシング(炭素に価格を付ける制度設計)などの制度改革が進行中です。
注目されているのが、GX-ETS(排出量取引制度)の整備です。これは一定規模以上の排出事業者を対象に、温室効果ガス排出量に上限を設け、排出枠の売買を可能にする制度です。
- 規制対象:年間排出量が10万トン以上の法人
- 対象排出スコープ:Scope 1(直接排出)
制度の義務化が進むことで、大規模排出企業に対して強制的な排出管理が求められるようになり、業界全体での排出削減と透明性の向上が期待されています。
ウェブ業界では、現時点で直接的な規制対象となるケースは少ないものの、取引先や委託先を含むScope 3の排出管理や、グリーン電力の利用、設計改善を通じた環境価値の訴求など、GXの方向性と連動した取り組みが今後ますます重要になります。
注記:GXには課題も指摘されています。政府のGX方針では、再生可能エネルギー拡大に加えて原子力発電の再稼働や新増設も含まれており、エネルギー政策としての評価が分かれる点があります。
グリーンホスティング(Green Hosting)
再生可能エネルギーで稼働するデータセンターやホスティングサービスを利用することで、サーバー起因のCO2排出を大幅に削減します。
詳しくは「グリーンホスティングとは?環境にやさしいウェブ運用の第一歩」をご覧ください。
エコデザイン(Eco Design)
ウェブサイトの設計段階から、通信量や表示負荷を抑えた軽量・高効率な構成にすること。画像最適化、不要なJavaScriptの削減、省エネフォントの採用などが該当します。
サステナブルデザイン(Sustainable Design)
環境・社会・経済の側面すべてを持続可能にすることを目指す設計思想。アクセシビリティや長期利用性も含めて配慮されることが多く、公共性や誰でも使えるUXと相性が良い設計方針です。
再生可能エネルギー(Renewable Energy)
太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、枯渇せず繰り返し利用できる自然由来のエネルギー源。ウェブ運用における電力を再生可能エネルギーでまかなうことで、Scope 2排出削減に貢献します。
Scope 1・2・3(温室効果ガス排出区分)
Scope 1・2・3は、企業や組織が排出する温室効果ガス(GHG)を排出源の違いに基づいて分類する国際的な基準です。この分類は、GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)に基づいており、脱炭素経営やESG報告の基礎指標として広く用いられています。
とくに Scope 3 は、サプライチェーン全体(製品の使用や廃棄まで含む、より広義のバリューチェーン)にまたがる排出を対象としており、「15のカテゴリ」に細分化して評価されます。Scope 1〜3 全体では、24分類に及ぶ体系的な構造が確立されています。
Scope 1(直接排出)
自社が所有・管理する施設や設備からの直接的な温室効果ガス排出。
例:社有車の燃料燃焼、工場のボイラーなど
Scope 2(エネルギー間接排出)
自社が外部から購入した電力・熱・蒸気などの使用に伴う間接排出。
例:オフィスの照明、データセンターの電力消費、自社が資産として管理するサーバーやクラウドインフラ、CDNの電力使用など。
Scope 3(その他の間接排出)
調達、物流、製品使用、出張、廃棄など、自社の活動に関わるが直接管理していない排出。
例:SaaSなどのクラウドサービス利用、ユーザーの閲覧端末、納品物の輸送、外部ホスティング、データ転送など、バリューチェーン全体にまたがる排出。
注記:Category 11(製品の使用)には、ユーザーのウェブ閲覧、端末での電力消費が含まれます。
グリーン証書/RE100(Green Power Certificate / RE100)
グリーン電力証書
再生可能エネルギー由来の電力であることを証明・代替可能にする仕組み。
RE100
事業で使用する電力を100%再生可能エネルギー化することを目指す国際的な企業イニシアティブ。ウェブ運用でも、グリーン証書の活用やグリーンホスティングの導入を通じて対応が進められています。
まとめ:環境配慮型ウェブ構築は、すべての関係者が共有すべき基礎知識
今回ご紹介した用語は、環境配慮型ウェブ運用を理解し、実践するための「共通言語」と言えます。GreenSyncWebでは、CO2排出量の可視化を出発点に、グリーンホスティングの選定支援や、軽量化・アクセシビリティ対応を含む、サステナブルなウェブ構築をサポートしています。
気候変動対策は、すべてのウェブサイト運営者に求められる責任です。今こそ「見える化」から始めてみませんか?
参考文献・出典
- 環境省「カーボンフットプリント(CFP)表示ガイド」
- SuMPO(一般社団法人サステナブル経営推進機構)CFP認証制度
- 環境省「カーボン・オフセット」紹介ページ
- J-クレジット制度(経産省・環境省・農水省)
- JCM(二国間クレジット制度)公式サイト(英語)
- 経済産業省「グリーン成長戦略」
- 環境省「脱炭素ポータル(デコ活サイト)」
- 経済産業省「GX実現に向けた基本方針」(PDF:3.1MB)
- 経済産業省「GXリーグ基本構想」
- GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)(英語)
- 環境省「サプライチェーン排出量算定ガイドライン」
- RE100(The Climate Group)(英語)
- グリーン電力証書制度(日本自然エネルギー)
- 資源エネルギー庁「再生可能エネルギー導入状況」
- Sustainable Web Design(by Wholegrain Digital)(英語)
- W3C: Sustainable Web Design Community Group(英語)