ウェブの環境性能が「調達条件」になる時代へ―フランスRGESNと海外の低炭素ウェブ事例
これまで当社のナレッジでは、「ウェブサイトにも環境負荷がある:海外動向から考えるデジタルの脱炭素」や「脱炭素×サステナブルなウェブ運用」第7回で、フランスのREEN法・RGESNやW3CのWeb Sustainability Guidelines(WSG)など、持続可能なウェブをめぐる国際的な動きを紹介してきました。
では、こうした考え方は、実際のウェブサイト制作や調達の現場でどのように使われているのでしょうか。
本記事では、フランスの公共調達で「データ転送量500KB以下」「30リクエスト以下」という具体的な数値が技術仕様として設定された事例などを取り上げ、ウェブサイトの環境性能がどのように「測定できる品質」として扱われ始めているのかを整理します。
1. RGESN(アール・ジー・イー・エス・エヌ)が示す「測定できる環境性能」
なぜ、公共ウェブサイトの「容量」が気になったのか
東京都をはじめ、行政機関では、来庁時の公共交通機関利用を案内するほか、業務の履行に伴う自動車利用についても環境への配慮を求める例があります。ウェブサイト制作などの業務も、その例外ではありません。
その一方で、以前から一つ疑問に感じていたことがあります。
ウェブサイトにも、データ通信やサーバー、利用者の端末を通じた環境負荷があるにもかかわらず、「公共機関が発注するウェブサイトでは、ページ容量などの環境性能を納品物の仕様として定めないのだろうか。」
たとえば、「1ページ当たりの容量は何KBまで」「ページ表示時の通信要求(リクエスト)は何回まで」といった、測定可能な基準を設けることもできるはずです。
そう考え、海外の公共機関では実際にどのようなウェブサイトの調達が行われているのかを調べてみました。すると、フランスですでに非常に参考になる事例が見つかりました。
RGESN:デジタルサービス・エコデザイン一般指針
フランスでは、デジタルサービスの環境負荷を抑えるための指針として、RGESN(Référentiel général d'écoconception de services numériques:デジタルサービス・エコデザイン一般指針)が整備されています。
2024年版のRGESNは78の基準から構成され、サービス設計、UX、コンテンツ、フロントエンド、バックエンド、ホスティングなど、デジタルサービス全体を対象としています。
なかでもウェブ制作の実務と関係が深いのが、基準6.1です。
ここでは、ウェブページなどの各画面について、最大データ容量、クライアントとサーバー間の最大リクエスト数を設定し、継続的に把握することが示されています。
RGESNでは例として、2MBのウェブページを1MBへ削減することや、1ページ100回のリクエストを30回未満に抑えることなどが紹介されています。設定した最大ページ容量やリクエスト数は、エコデザイン宣言で示すことも想定されています。
ここでいう「リクエスト」とは、ページを表示する際に、ブラウザがHTML、CSS、JavaScript、画像、Webフォント、アクセス解析などのデータをサーバーや外部サービスから取得するために行う通信要求です。
重要なのは、RGESNが「ウェブサイトのCO2排出量を減らしましょう」という抽象的な考え方だけを示しているのではないことです。
ページ容量や通信回数といった測定可能な指標を設定し、設計・開発・運用の中で管理する。
ここに、ウェブの環境配慮を実務へ落とし込むための特徴があります。
2. 公共調達で「500KB以下・30リクエスト以下」を仕様化
この考え方を実際の公共調達に取り入れた事例が、フランス・レンヌの公共文化施設Les Champs Libres(レ・シャン・リーブル)です。
同施設では、ウェブサイトのリニューアルにあたり、アクセシビリティやエコデザインを企画段階から取り入れていました。
公開されているCCTPの付属資料11.C「Mesure d’efficience des résultats」では、具体的な性能基準として、次のように記載されています。
du volume de données échangées =< 500 kiloOctets par page sur l’ensemble du parcours technique ;
pour l’ensemble d’un parcours d’utilisation, de l’énergie consommée =< 3,5 mAh (milliampère-Heure) par page sur un téléphone mobile de gamme intermédiaire muni d’un navigateur web ;
lors du chargement de la page, du nombre de requêtes envoyées vers les serveurs =< 30 par page.
つまり、1ページ当たりについて、次の基準が設定されていました。
- データ転送量:500KB以下
- 中間クラスのスマートフォンでの消費エネルギー:3.5mAh以下
- ページ読み込み時のリクエスト数:30以下
その後のRGESN監査では、データ転送量500KB以下とリクエスト数30以下について、対象ページの平均値・中央値が基準を満たしていることも確認されています。
環境配慮を努力目標にとどめず、発注段階で数値として仕様化し、完成後に測定・検証できる品質基準として扱っているのです。
リニューアル後には大幅な軽量化を実現
Les Champs Libresでは、リニューアルによって、
- ウェブアプリケーションを73%軽量化
- トップページのスクリプトを約50から2へ削減
- トップページ重量を90%以上削減
- トップページの読み込み時間を70%短縮
- ホスティングの平均電力消費量を30%削減
などの成果が報告されています。
現在のトップページも、300KB未満・21リクエストとされています。さらに、公開後もサイト全ページのページ重量とリクエスト数を3か月ごとに分析しています。
発注時に基準を設定し、完成後に検証し、公開後も継続的に監視する。
このように、環境性能をウェブサイトの品質管理に組み込んでいることが、この事例の大きな特徴です。
不要な処理やデータを削減し、情報設計やユーザー体験を見直すことで、環境性能とウェブサイトとしての品質を両立できる可能性も示しています。
3. 公立病院のウェブサイト入札でもRGESNへの対応を求める
公共調達における環境配慮は、文化施設だけに限られません。
2026年、フランスの公的医療機関Hôpital Nord Franche-Comté(北フランシュ=コンテ病院)は、病院グループ共通のウェブサイトについて、設計、開発、公開、保守・運用までを対象とした公開入札を実施しました。
この調達では、応募事業者に対して、技術提案の中でRGESNの原則を可能な限り取り入れるための施策を説明することが求められています。
具体的には、
- ページ重量と読み込みの最適化
- 不要な技術リソースの削減
- 省資源で高性能なソリューションの提案
などです。
Les Champs Libresのような「500KB以下」といった固定値までは、今回確認した公開情報では確認できませんが、公的病院のウェブサイト調達でも、環境性能を技術提案の中で示すことが求められている点は注目できます。
ウェブサイトの環境配慮が、一部の先進的な取り組みにとどまらず、公共サービスの調達にも広がり始めていることが分かります。
4. フランスでは公共調達そのものに環境配慮を組み込む動き
こうした個別のウェブ調達事例の背景には、フランス全体で公共調達に環境配慮を取り入れる動きがあります。
フランスでは2026年8月22日から、気候・レジリエンス法に基づく公共調達制度の新たな要件が適用されています。
公共調達では、環境への配慮を落札基準や契約履行条件などに組み込み、持続可能性を調達手続の中で体系的に考慮することが求められるようになりました。
これは、「すべての公共ウェブサイトを500KB以下にする」といった制度ではありません。
一方で、公共調達全体で環境面を考慮する制度が整備され、デジタル分野にはRGESNという具体的な指針があります。実際のウェブサイト調達でもページ容量やリクエスト数などが使われており、今後の公共ウェブ調達を考えるうえで注目すべき動きといえます。
5. 民間企業でも進む低炭素ウェブ―Cafédirectの事例
環境配慮型ウェブは、公共分野だけでなく民間企業でも実践されています。英国のコーヒー企業Cafédirectは、SBTiにより承認された温室効果ガス排出削減目標にも取り組む企業です。
同社はWholegrain Digitalとともにウェブサイトをリニューアルし、トップページについて次の結果が報告されています。
- CO2排出量推計値:2.69g CO2/PVから0.08g CO2/PVへ削減
- ページ読み込み時間:18.7秒から1.5秒へ短縮
- Lighthouse Accessibility:91%
- Lighthouse Performance:97%
設計段階では、情報アーキテクチャを見直し、不要な機能を減らす一方、モバイルファーストで利用しやすいページを設計することで軽量化しています。
この事例が示すのは、低炭素ウェブが単に「画像を減らす」「デザインを簡素にする」ことではないということです。必要な情報や機能を整理し、データ量と処理を適正化することで、環境性能、表示速度、アクセシビリティなどをあわせて改善できる可能性があります。
企業が掲げる環境方針と、情報発信の入口であるウェブサイトの設計思想を一致させる取り組みとしても参考になります。
6. なぜ「ページ容量」「リクエスト数」が調達指標になり得るのか
ウェブサイトの環境負荷を評価する方法として、1ページ閲覧当たりのCO2排出量を推計する方法があります。
一方、CO2排出量の推計値は、算定モデルやデータセンター、通信ネットワーク、利用者端末、電力の排出係数などによって異なり、同じページでも測定ツールによって差が生じることがあります。
そのため、公共調達やウェブ制作の仕様では、CO2排出量だけでなく、次のような測定・確認しやすい技術項目を組み合わせることが有効です。
- ページ容量・データ転送量
- HTTPリクエスト数
- 画像・動画などの容量
- 外部スクリプト
- キャッシュ設定
- ホスティング環境
特に、アクセス解析、ヒートマップ、広告、SNSなどの外部サービスは、JavaScriptの読み込みや外部サーバーとの通信を発生させます。必要性を確認し、使われていない外部スクリプトを残さないことも軽量化のポイントです。
ページ容量やリクエスト数は、ブラウザの開発者ツールなどでも確認できるため、発注時の目標設定、制作途中の確認、納品時の検収、公開後の継続的な監視にも利用できます。
Les Champs Libresの事例が示すように、環境性能を発注者と制作者が共有できる「測れる品質」にすることは、ウェブの環境配慮を実務に取り入れるうえで重要なポイントと考えられます。
7. 日本でもウェブの環境性能が公共調達の指標になるか
日本でも、国や行政機関ではグリーン購入法などに基づく環境配慮型の調達が行われています。また、政府ウェブサイトでは、セキュリティ、アクセシビリティ、利用者中心の設計など、さまざまな品質要件が求められています。
ウェブアクセシビリティについては、JIS X 8341-3やWCAGなどを活用した評価・検証も行われています。
一方、2026年9月時点で今回確認した政府の公開資料では、フランスの事例のように、「1ページ○KB以下」「リクエスト数○回以下」といった環境性能指標を、政府ウェブ調達の共通基準として扱う仕組みまでは確認できませんでした。
しかし、ページ容量やリクエスト数を抑えることは、環境負荷の低減だけでなく、次のようなウェブ品質の向上にもつながります。
- 通信量の削減
- 表示速度の向上
- モバイル環境や低速回線への対応
- サーバー・ネットワーク負荷の低減
- 利用者体験の改善
つまり環境性能は、既存のウェブ品質と切り離された新しい要求ではなく、パフォーマンスやアクセシビリティなどとも関係する品質指標と考えることができます。
将来、日本でも行政・公共機関のウェブサイト調達において、アクセシビリティ、セキュリティ、性能などと並び、ページ容量、データ転送量、ホスティング環境などの「環境性能」が評価項目の一つに加わる可能性は十分に考えられます。
8. まとめ:低炭素ウェブを「測れる品質」へ
今回、海外の公共機関におけるウェブ調達を調べる中で、以前から感じていた疑問に対する一つの具体的な答えが見えてきました。
ウェブサイトの環境性能は、調達仕様として数値化し、完成後も検証・管理することができます。
フランスでは、RGESNによってページ容量やリクエスト数を管理する考え方が示され、実際の公共調達でも「500KB以下・30リクエスト以下」といった基準が設定されています。
また、Cafédirectの事例が示すように、低炭素化は表示速度やアクセシビリティなどと対立するものではなく、ウェブサイト全体の品質改善にもつなげることができます。
これから重要になるのは、「環境に配慮したウェブサイト」と表明するだけではなく、環境負荷を測定し、目標を設定し、改善し、その結果を説明できる状態にしていくことです。
ウェブサイトの環境性能が、アクセシビリティやセキュリティ、表示性能と同じように、設計・調達・運用における品質の一つとして扱われる。今回確認したフランスの事例は、そうした考え方がすでに公共調達の現場で実践されていることを示しています。
ウェブサイトの環境負荷を確認してみませんか
当社では、ウェブページ単位の二酸化炭素排出量の推計値やページ容量、画像、外部スクリプト、ホスティング環境などを確認する「ウェブ環境負荷簡易診断」を行っています。まずは、自社サイトの現状を把握することから、デジタル領域の環境配慮を始めてみませんか。