Volkswagen|大手自動車メーカーによる低炭素ウェブの実践
企業の脱炭素への取り組みは、製品や事業活動だけに限られるものではありません。企業が情報を発信するウェブサイトも、データ通信やサーバー、利用者の端末などを通じてエネルギーを消費しています。
こうしたデジタル領域の環境負荷に早くから着目した企業の一つが、ドイツの大手自動車メーカーVolkswagen(フォルクスワーゲン)です。
2021年、Volkswagen Canadaは電気自動車「ID.4」の展開にあわせ、ウェブサイトのデータ量とCO2排出量の削減に取り組む「The Carbon-Neutral Net」を公開しました。
製品の環境性能だけでなく、その情報を伝えるウェブサイトにも環境配慮を取り入れた事例として紹介します。
1. 電気自動車を紹介するウェブサイトも低炭素に
Volkswagen Canadaは2021年2月、低炭素なウェブ体験を提供するプロジェクト「The Carbon-Neutral Net」を発表しました。
きっかけとなったのは、同社が展開する電気自動車「ID.4」です。電気自動車による環境負荷低減を訴える一方、その情報を提供するウェブサイト自体でもエネルギーが消費されます。
そこで同社は、広告会社TYPE1と協力し、電気自動車などの情報を掲載するウェブページそのものを軽量化することを試みました。
通常のウェブサイトとは別に低炭素版を用意し、利用者が異なるウェブ体験を比較できる仕組みとしたことも、このプロジェクトの特徴です。
これは単なるウェブデザインの変更ではなく、企業の環境方針を、情報を届ける仕組みにも反映しようとする取り組みといえます。
2. 写真をASCII文字に置き換え、データ量を削減
自動車メーカーのウェブサイトでは、車両の写真や動画など、多くの画像データが使われるのが一般的です。
The Carbon-Neutral Netでは、その考え方を大きく変えました。
通常の写真やカラー表現を取り除き、150万以上のASCII文字を組み合わせて画像を表現するという手法を採用したのです。
ASCIIアートは、文字や記号の組み合わせによって形状や濃淡を表現する技術です。車の姿も文字によって描かれ、従来の画像を多用したページとは大きく異なるデザインとなりました。
さらに、プロジェクトに技術支援を行ったWholegrain Digitalは、ウェブサイトの読み込み負荷やデータ転送に着目し、技術的な効率化について助言しました。重要なのは、単に見た目を簡素化したことではありません。
「情報を伝えるために、どこまでのデータが本当に必要なのか」を設計段階から問い直した点に、この取り組みの特徴があります。
3. 1ページビューあたり0.022g-CO2という測定結果
Volkswagen Canadaが2021年に公表したThe Carbon-Neutral Netの測定結果では、1ページビューあたりのCO2排出量は平均0.022gとされています。
また、当時Website Carbonが測定対象としていた200万以上のウェブページのうち、99%のページよりもCO2排出量の推計値が少ないという結果が示されました。
この結果は、当時の測定方法とウェブサイトの構成に基づくものです。2026年現在の測定結果や、異なる算定モデルによる測定値と単純に比較できるものではありません。
それでも、大手企業がウェブサイトの環境負荷を測定し、その結果を具体的な数値で公表したことには意味があります。ウェブサイトの環境配慮をイメージだけで伝えるのではなく、測定可能な環境性能として捉え、改善結果を示したことが、この事例の重要なポイントです。
4. 実証から通常のウェブ運用へ
The Carbon-Neutral Netは、Volkswagenのすべてのウェブサイトを置き換えるものではありませんでした。プロジェクトを支援したWholegrain Digitalによると、低炭素版ウェブサイトは通常のID.4サイトと比較して、CO2排出量の推計値を約50%削減する成果を示しました。
一方、実験的なデザインを通常のウェブサイト全体へ適用することには、情報の伝わりやすさや利用者の体験という課題もあります。
同社は、この取り組みを、低炭素ウェブの可能性を検証するための実証として評価しています。そして、そこで得られた知見は、通常のID.4サイトの効率改善にも活用されました。
さらに、Volkswagenのプロジェクト担当者は、低炭素ウェブの開発で得られた知見を、今後のキャンペーンにも活用していく考えを示しています。この取り組みはCO2排出量の削減にとどまらず、技術的な知見の蓄積や、通常サイトの効率改善にもつながりました。
また、Volkswagenが世界的に使用するCMS(コンテンツ管理システム)の構造が、軽量化の制約となることも明らかになりました。これは、ウェブサイトの環境性能を改善するうえで重要な示唆です。
画像を圧縮するだけでなく、CMS、プログラム、コンテンツ設計、運用方法など、ウェブサイトを構成する仕組み全体を見直す必要があります。
さらに2022年4月22日のアースデイには、Volkswagen Canadaは「Day to Zero」を実施しました。通常のウェブサイトを一時的に停止し、ASCII文字で電気自動車「ID.Buzz」を表現した軽量なランディングページを公開しています。
このページについて、同社は通常のウェブサイトと比較して、CO2排出量を最大93%削減できると説明しました。
こうした取り組みは、低炭素ウェブの開発を通じて得た知見を、通常のウェブ運用や今後の施策へ生かしていくことの重要性を示しています。
5. まとめ:ウェブサイトも企業の環境対応の一部になる
Volkswagen Canadaの取り組みから見えてくるのは、企業の環境方針とウェブサイトを切り離して考える必要はないということです。
電気自動車を通じて脱炭素に取り組む企業が、その情報を発信するデジタル環境についても負荷低減を考える。
これは、企業が掲げる環境方針と、実際の情報発信手段を一致させようとする取り組みともいえます。
もちろん、すべての企業が画像をASCII文字に置き換える必要はありません。利用者に必要な情報を適切に届けることや、ウェブアクセシビリティを確保することも欠かせません。
重要なのは、まずウェブサイトの環境負荷を測定し、現状を把握することです。そのうえで、ページ容量、画像、プログラム、ホスティング環境など、改善できる部分を見極め、継続的に見直していくことが求められます。
Volkswagenの事例は、ウェブサイトの環境性能も、企業のサステナビリティ活動の一部として捉えられることを示した、早期の実践事例の一つといえるでしょう。