ACCESS|環境性能とウェブアクセシビリティの改善
ウェブサイトの環境負荷を減らす取り組みは、画像やコードの軽量化だけではありません。情報を見つけやすくし、必要なコンテンツへ少ない操作で到達できるようにすることは、アクセシビリティやユーザビリティの向上とともに、データ転送量の削減にもつながります。
英国の環境社会科学プログラム「ACCESS(Advancing Capacity for Climate and Environment Social Science)」では、ウェブサイトのリニューアルにあたり、環境性能・ウェブアクセシビリティ・インクルーシビティ(社会的包摂)の3つを重点課題として改善を進めました。
その結果、旧サイトと比較してCO2排出量を93%削減したと報告しています。さらに、ホームページの初回読み込み時のデータ量を6MB超から約700KBまで軽量化し、アクセシビリティや情報の探しやすさも改善しました。
この事例は、環境性能の向上と多様な利用者への配慮を両立させる、持続可能なウェブ設計の考え方を示しています。
1. サイトの成長に伴う環境負荷と利用上の課題
ACCESSは、英国で環境問題の解決に向けた社会科学の活用を推進するプログラムです。
活動や研究成果の蓄積に伴い、ウェブサイトのコンテンツが増加し、構造が複雑化。目的の情報を見つけにくくなり、一部にはアクセシビリティ上の課題も生じていました。
また、旧サイトは再生可能エネルギー100%で稼働する英国のホスティング事業者Krystalを利用していたものの、月平均のデータ転送量は約20GBに達していました。
そこでACCESSは、サイトのリニューアルに際して3つの重点課題を設定しました。
- 環境性能:エネルギー効率を改善し、デジタル領域の環境負荷を減らす
- ウェブアクセシビリティ:多様な利用者の情報アクセスにおける障壁を減らす
- インクルーシビティ:多様な立場や背景を持つ人々が参加しやすい情報発信を目指す
2. ホームページを約9分の1に軽量化
環境性能の改善では、画像の圧縮や読み込み処理の最適化に加え、コンテンツ構成やナビゲーション、検索機能の見直しが行われました。
その結果、ホームページの初回読み込み時のデータ量は、旧サイトの6MB超から約700KBへと削減され、約9分の1の容量になりました。
また、サイト構造の改善によって、利用者が必要な情報へ短い経路で到達できるようになり、不要なページ遷移やデータ転送の削減にもつながります。
ACCESSも、ナビゲーションの改善がアクセシビリティやインクルーシビティの向上だけでなく、エネルギー効率の改善にも寄与したと説明しています。個々のファイルの軽量化に加え、情報設計そのものを最適化することも、ウェブサイトの環境性能を高める重要な視点です。
3. ウェブアクセシビリティと情報の探しやすさを改善
ACCESSでは、環境性能の改善と並行して、ウェブアクセシビリティにも取り組みました。
主な改善内容は次のとおりです。
- 文字、色、行間などを利用者が調整できるウェブアクセシビリティツールの導入
- ナビゲーションやサイト構造の見直し
- スクリーンリーダーに対応したフォームへの変更
- サイト内画像への代替テキストの追加
公式発表によると、リニューアル後のウェブサイトはWCAG 2.0 Level AAの基準を満たしているとしています。また、インクルーシビティの観点から、研究者やプロジェクト関係者の写真を増やし、活動に参加する人々の存在を伝えやすくする改善も行われました。
情報を見つけやすくすること、異なる利用方法に対応すること、多様な人々の活動を可視化することは、それぞれ目的が異なります。
しかし、これらを一体的に見直すことで、単なる技術的な改善にとどまらず、より多くの人が利用しやすいウェブサイトへと発展させています。
4. 環境性能とインクルーシビティの両立に向けた設計判断
ACCESSの取り組みで特徴的なのは、環境性能、アクセシビリティ、インクルーシビティが常に同じ方向へ働くとは限らないことを認識し、その調整にも取り組んでいる点です。
例えば、ACCESSでは、研究者や関係者の多様性や活動を伝えるため、人物の写真を増やすことを重視しました。一方で、画像の増加はページ容量を大きくし、環境負荷の増加につながる可能性があります。
つまり、インクルーシビティの向上と環境性能の改善との間には、場合によってトレードオフが生じることになります。
一方、ACCESSは、こうした課題に対し、画像の圧縮やサイト全体の軽量化を進めながら、それぞれの目的を調整しました。
重要なのは、環境性能のために必要な情報表現を一律に削減することでも、インクルーシビティのためにデータ量の増加を無条件に受け入れることでもありません。
環境性能とインクルーシビティのどちらかを犠牲にするのではなく、両者の価値をできる限り維持しながら、適切なバランスを探ることが持続可能なウェブ設計といえます。
5. CO2排出量を93%削減した改善結果
ACCESSは、ウェブサイトのリニューアルによって、旧サイトと比較してCO2排出量を93%削減したと報告しています。
主な測定結果は次のとおりです。
- CO2排出量:93%削減(ACCESS公表値)
- ホームページの初回読み込み容量:6MB超から約700KBに軽量化
- Species Impact:Grade FからA+へ改善
- Google Lighthouse:Performance・Best Practicesともに100/100(デスクトップ・モバイル)
- Ecograder:92/100(Grade B)
- 訪問あたりの推定CO2排出量:88〜98%削減
ホームページの大幅な軽量化やサイト構造の改善、アクセシビリティへの対応など、複数の観点からウェブサイトを見直し、環境性能と利用品質の向上を図った点は参考になります。
注記:CO2排出量は算定モデルに基づく推定値です。各数値はACCESSが2026年に公表した測定結果であり、現在のウェブサイトの環境性能を示すものではありません。
6. まとめ:複数の価値を尊重する持続可能なウェブ設計
ACCESSの事例は、ウェブサイトの環境性能改善が、画像やコードの軽量化だけで完結するものではないことを示しています。情報設計やナビゲーションの改善は、アクセシビリティやユーザビリティを高めるとともに、不要なページ遷移やデータ転送の削減にもつながります。
一方で、画像を使ったコミュニケーションのように、環境性能とインクルーシビティとの間で調整が必要になる場合もあります。
持続可能なウェブ設計では、単にデータ量を減らすことを優先するのではなく、ウェブサイトの目的や利用者に必要な情報を見極め、複数の価値を尊重しながら最適化することが求められます。
環境負荷の低減と、誰もが利用しやすいウェブサイトの実現。その両方を目指し、適切なバランスを考え続けることが、サステナブルウェブの重要な視点です。